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眼前には少し暗い森と小鳥たちの囀り……そして、薪を割る音が聞こえる。
森の中に生えた茂みの中にある広場では、一人の男の子が静かに座禅を組んで瞑想をしていた。
頬まで伸びた黒髪に、所々汚れた白いシャツに黒い半ズボン。
そして腰には一本の剣が佩かれている。
少年は、呼吸の音も立てずに瞑目を続けていた。音を立てるものといえば、鳥たちの鳴き声と心臓の鼓動、そして鳴りやまない薪割りの音。
少年は今、何を思うのか……。
――ただ強くなりたい。世界で一番強くなりたい。全ての大切な人を守るため、全ての悪党を倒すため、俺は強くなりたい……。
その一念で、少年は修行を続けていた。
そのとき茂みの外から小さな小石が飛来し、少年の後頭部に当たりそうになったが、すぐに首を動かして小石を避けた。
「あ、外れちゃった……」
茂みの外から、可愛らしい女の子の声が響く。
少年は不機嫌そうな顔で背後を見ると、茂みをかき分けながら、小石を投げた犯人が出てきた。
滑らかな黒髪は肩まで伸び、袖の無い白いシャツにオレンジのスカートを穿いた少女。
「なんだよ、リン。修行の邪魔をするな」
「うわ、なんて無愛想な言葉……それが幼馴染に言うセリフなの?」
「あ~、聞こえないな」
「ひっどぉい! こうなったら、お父さんに言い付けちゃおうかな。ヴェルドが私を苛めたって」
リンの父は、ヴェルドの師なのでそれは誠に困る。
やむを得ずヴェルドは頭を下げた。
「……悪かった」
「分かればよろしい。あ、お弁当を持ってきたよ。一緒に食べよ!」
と、リンは青い布に包まれた弁当箱を取りだして、ヴェルドの隣に座った。
『いただきます』
きちんと手を合わせ、二人一緒に言ってから、ヴェルドは握り飯を一つ掴んでほおばる。
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