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別に父が教えたわけではない。
少しでも父や兄弟たちの手助けをしようと、山ウサギなどを狩るために弓矢を始めたのが、いつの間にか弓矢が楽しくなって腕も上達していったのだ。
リンが畑に向かい、ヒュウガはヴェルドとレオンに手合わせをするように指示した。
「いくぞ、レオン」
「手加減はせんで!」
剣を抜いた二人は二メートルほどの間隔を開けて対峙し、ほぼ同時に踏み込んで刃を打ち合った。ヒュウガは穏やかな視線を激しく動く二人に向け、その剣筋、立ち回り、防御の形、隙などを細かく分析していく。
「はぁっ!」
「うはっ!」
ヴェルドが剣を振り上げると、レオンが握っていた剣は宙を舞って地に突き刺さった。
「うわぁ、負けてしもうた!」
「まだまだ、修行が足りないぞ」
剣を鞘に仕舞い、チラッと師の言動を盗み見る。
しかし師は何も答えてはくれない。ただ、笑うのみであった。
ヴェルドは、それがどうにももどかしくて嫌だった。駄目なところがあるならハッキリと言ってほしく、上手にできたのならほめてほしかった。
まだまだ、心は子供であったのだ。
それはヒュウガも十分承知していたのだが、やはり何も言わず、ただ笑顔を向けるだけ。
「二人とも、剣を仕舞いなさい。もう陽が暮れる」
見上げてみれば、確かに空は茜色に染まっていた。
二人は剣を片づけて、家の中に入って皆で茶を囲んだ。
一口茶を啜ったヒュウガは、リンと談笑しているヴェルドたちを見て、静かに口を開いた。
「二人とも、随分腕が上達してきたようだ。明日から、この私と手合わせをしよう」
「えっ?」
突然のことで、ヴェルドとレオンは顔を上げた。
今まで師と手合わせしたことはなく、ずっと互いに鍛え合っていたので、明日から憧れの師と打ち合えると思うと胸が高鳴った。
その日は早めに眠り、翌日の朝、早速師と手合わせする時が来た。
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