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ヒュウガは、背後に続く獣道をチラッと盗み見て、すぐ後ろに控えるヴェルドらに目を向けて決断した。
「ヴェルド……レオン……リン……逃げなさい」
「え!?」
「な、何を言うんや! お師匠様!」
「そうよ! お父さん一人だけ残すなんてできない!」
「口応えは許さない! いいから、ここは任せて逃げなさい。私は大丈夫。それに君たちも、森の中は知りつくしているだろう? そのまま外の世界に出なさい。ヴェルド、これを君に託す」
ヒュウガは腰の月牙を取り、背中越しに差し出した。
「師匠……どうして?」
「君は、才能がある。そしてこの剣を扱えることができるはずだ。さあ、私に修行の成果を見せてくれ。大切なものを守ってみせなさい!」
さらに二人の男を陽牙の餌食にし、ヴェルドに厳しい目を送った。
その視線に、これ以上は何を言っても無駄だと悟ったヴェルドは無言でうなずき、月牙を腰に佩いてレオンとリンの手を引いた。
「ヴェルド!?」
「ちょっと、離してよ!」
「いいからくるんだ! 師匠の……父さんの気持ちを無駄にするな」
ヴェルドに一喝された二人は、もう一度だけ父の顔を見ようと振り返ったが、ヒュウガは背を向けたまま顔を男たちに向けたまま動かない。
これで別れるのかと思うと目には自然と涙があふれ、手の甲でぬぐいながら森のなかに駆けこんだ。
「逃がすな! 追え!」
追えと言われても、獣道に行くには立ちふさがるヒュウガを倒さなければならないため誰も動くことができない。
森の中に入ったところで、無駄だということは誰もが分かっていた。
「……すまない。もっと鍛えてやりたかったが――」
ヒュウガはその場に立ちつくす全員を見据え、冷たい笑みを浮かべて陽牙を高々と掲げた。
「我が名は、ヒュウガ・クラウト。これより先は地獄と思え。我が刃が黄泉へ誘い、お前たちを閻魔へ引き渡そう。今宵の雨は我が刃の穢れを洗い流すだろう。我、推して参る!」
陽牙を構え、ヒュウガは男たちに向かって踏み込んでいった…………。
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