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暗い山中を、ヴェルドたちはひた走る。
頭上では激しい雷鳴がとどろき、バケツをひっくり返したような大雨で視界も足元も不安定だ。
時にぬかるんだ土に足を取られそうになったが、すぐに姿勢を整えて走り続けた。
誰も背後を振り返らなかった。
誰も弱音を吐かなかった。
誰も涙を拭おうとしなかった。
ただ森の外を目指し、辺りに警戒しながら駆け抜ける。
「きゃっ!」
しかし、森の外まであと少しのところでリンが転んでしまった。
「大丈夫か!?」
「う、うん……はっ!」
ヴェルドに手をひかれて起き上がろうとするリンは、茂みの中から弓を構える男を見つけ、咄嗟にヴェルドを突き飛ばした。
矢が飛んできたのは、そのすぐ後だった。
リンは弓に矢をつがえて放つと、見事に隠れていた男の額に突き刺さった。
「やった!」
「相変わらず上手いな。さ、行くぞ!」
三人は、山の中でも一番の難所である吊り橋にさしかかった。
この大雨で下の川は増水して氾濫しており、落ちたらひとたまりも無い。
ゆっくりと、しかし急ぎ足で吊り橋を渡って行く。
まずヴェルドが渡りきり、次いでリンが向こう側にたどり着いた。
「レオン、急げ!」
「ま、待ってくれや! さすがに足が……」
手すりの縄に支えられるようにレオンが歩いていると、上流から轟音が聞こえ、大岩とともに巨大な水の流れが襲いかかってきた。
「レオン!!」
「う、うわぁあああ!!」
ヴェルドは叫んだが、そのときには、レオンは橋と共に濁流に飲まれていった……。
「そ、そんな……」
リンは糸が切れたように地面に膝をつき、濁った激流を虚ろな目で眺めた。
「……行くぞ」
静かに呟きながらリンを起こそうとすると、彼女は鋭い目つきになってヴェルドの頬を思い切り平手で打った。
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