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「馬鹿! レオンが死んだんだよ? ヴェルドは悲しくないの!?」
「悲しくないわけないだろ!!」
ヴェルドは叫び、リンに顔を向けて肩に手を添えた。
「悲しくないわけ……ないだろ。でも、いくら悲しんでもレオンは戻ってこない。早くしないと奴らが来るかもしれない。さっきみたいに。もしもここで俺たちが死んだら、父さんの願いはどうなる? レオンの犠牲はどうなる?」
「…………」
リンはただ涙を流して項垂れ、彼女の固く握りしめて震えている拳を優しく掴み、ヴェルドは森の中を進んだ。
雨はますます勢いを増し、もう濡れているのかどうかも分からないほどに、二人の体温を奪っていく。
体力も限界に近い……。
だが、森の出口まであと一歩なので二人は最後に残った力を振り絞って歩み続けた。
ついに森から脱出することができたヴェルドとリンは、大きく呼吸を繰り返して地面に倒れ込んだ。
雨は小雨になり、やがて止んで雲の間から眩しく温かい日差しが二人を包み込んだ。
「はぁ……はぁ……出た……」
「疲れたね……私……寝そう…………すぅ」
疲労の限界に達したリンは、そのまま寝息を立て始めた。
しかしこんなところで寝るわけにもいかず、ヴェルドは四肢に力を込めて立ち上がり、眠っているリンを背負ってさらに歩く。
民家があれば、そこで一宿しようと思っていると、ちょうどいいところに農家があるではないか。
ヴェルドは扉を叩いた。
「どちらさん? こんな朝から」
少し不機嫌な男性の声が聞こえ、扉が開かれた。
目の前にはぼろぼろに汚れた少年と少女が二人。しかも、少年の腰には剣が佩かれているため、男性が怪訝な顔になったのは当然。
ヴェルドは必死に事情を説明し、何とか家の中に入れてもらった。
奥方が着替えを用意してくれた上にリンをベッドに寝かせてくれたので、ヴェルドは一安心しながら温かい茶を啜りつつ、詳しいことを農夫婦に話した。
身よりも、行くあてもないことを言うと、奥方が暫くこの農園で働くことを提案したので、ヴェルドはすぐに頷いた。
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