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ちょうど先日に長男が出ていったために人手が足りなく、困っていたらしい。
こうしてヴェルドとリンは農園で働くことになった。
しっかりと栄養を取り、睡眠を貪った二人は、元気よく働いた。
またヴェルドはその腕を見込まれて農園の用心棒にもなった。
夫婦も新しい子供ができたと大層喜び、四人はとても仲良く暮らしていった。
そんなある日……ヴェルドは畑で草取りをしていると、家の裏側にある厩の方からリンの悲痛な叫びが聞こえた。
すぐに月牙を持って駆け付けると、そこには、変わり果てたリンの体と手にナイフを持った夫婦が彼女の亡骸を見下ろしていた。
ナイフから紅い血が滴っており、それを見たヴェルドは激昂して月牙を抜く。
「お前たち……まさか……」
ヴェルドのあまりの剣幕に、夫婦は恐れて弁明することもできず、何も言わない彼らのことを図星と見たヴェルドは怒りのままに剣を振って夫婦を惨殺してしまう。
本当は、馬の鬣を剪定していた夫婦が誤って馬を傷つけてしまい、驚いた馬がリンを殺めてしまったのだが、もはやそれを知ることもできない。
ヴェルドはリンの亡骸の前で三日三晩の間泣き続け、喉も涙も枯れてきたころに、丁重に彼女の遺体を葬ってそのまま広大な大地を彷徨った。
今、ヴェルドの心には、悲しみと寂しさと彼女を守れなかった己の未熟さを呪う、負の感情が泉のように湧き出し、渦巻いている。
歩いているうちに、ヴェルドは旅の行商人にであった……瞬間、月牙の刃が一閃され、行商人の首が胴と離れた。
そして、商品の中から食糧など必要なものを取って、刃についた血も拭わずに旅を再開し、出会う人間の悉くを餌食にしていった。
失望、絶望、人間不信、疑心暗鬼……ヴェルドは、幽鬼と化していた。
幾多の人間を斬り殺し、噂を聞いてやってきた武芸者を一蹴し、さらには捉えるために駆け付けた王立軍すらも歯が立たなかった。
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