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宰相メイスと出会ったのもこのころで、最初は気さくに話しかけてくるメイスを無視し続けていたが、あまりにも鬱陶しいので殺気を飛ばしたところ、向こうからも鋭い殺気が飛んできたので、それ以来警戒するようになったのがいつの間にか友となっていた。
また赤子であったシクルスを警護するのは楽な仕事で、海賊討伐などに呼ばれれば赴いて、剣技を披露した。
その冴えわたる見事な技を見た兵士たちが、いつしか彼のことを『黒剣士』と呼ぶ様になり、他の将軍たち会った時も手合わせをしたが、誰一人として彼には勝てなかった。
同時に、その剣を向けられた海賊たちの間ではヴェルディンは脅威であり、恐怖の対象となる。
日課は人気のない裏門での瞑想。
目を閉じると、濁流にのまれたレオンや変わり果てた姿のリンが浮かんでくるが、こうして目を閉じれば二人に会えると、辛い気持を敢えて受け入れていた。
また、好物であった梅干しも、いつしか口にするのを躊躇うようになっていた。
食べるとリンとの思い出がよみがえり、胸の奥が苦しくなるから……。
王が崩御したのは、ヴェルディンが城に入ってから三年後のこと。
後継者のシクルスはまだ幼く、宰相であり教育係でもあるメイスが主に面倒をみていた。
一方、ヴェルディンはシクルスの警護を続行するのと共に、挑んでくる兵士たちの相手に時間をつぶした。
といっても、瞬時に相手を打ち負かすだけで、決して自身の剣技を教えることはない。
古の殺人剣である紫電は、ヒュウガから誰にも教えないように厳命されていたから。
ただ一つの例外として、自分が見込んだ唯一の弟子だけには教えても構わないとも言われていたが、この城にも外の世界にも、これといった才能のある者はいなかったし、いたとしても決して弟子は取らない。
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