第1章 炎を纏った少年

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 朝が来た。  カーテンの隙間からは太陽の光が差し込み、机の上に置かれた目覚まし時計が布団に包まったまま寝息を立てている安藤弘樹を起こそうと、機械的な鳴き声をしつこく繰り返している。  その音によって夢の世界から引き戻された弘樹は、布団から腕を伸ばして目覚まし時計を布団の中に引きずり込み、アラームの停止ボタンを押して、目を擦りながら現在の時刻を確認する。  七時半……HRが始まるのが八時半なので、そろそろ起きて朝食を食べないとHRに遅刻する危険があったので、布団を跳ね除けると途端に全身に鳥肌が立つ。  なぜなら、今は冬の真っ只中だからだ。  すぐさま弘樹は布団の中に戻りたかったが、このまま二度寝をしたら遅刻確定になってしまうため、さっさと寝巻きから冬用の制服に着替え始める。  白いカッターシャツを着て紺色の制服の金ボタンを留め、同じく紺色のネクタイを締めながら部屋の水色カーテンを開けると、青い空に昇っていく太陽が部屋を明るく照らし出した。  きちんと整理整頓されたこの部屋は、年頃の男子の部屋には見えないと言われるほどであり、部屋の壁には使い古された一本の竹刀が立て掛けられている。 黒い手提げカバンに教科書やら筆箱やらを詰め込み、ドアを開けて廊下に出ると、部屋の外はさらに気温が低かった。  吐く息は屋内の癖に結構白い。  階段の下からは美味そうな朝食の匂いがする。今朝もまたいつものように母親が作っている。  が、弘樹は朝食の匂いがしたことに安堵の溜息を漏らした。  実は、弘樹の母親は目覚めの気分によって朝食と昼食の弁当作りをしないときがある。  要するに極度の気分屋なのだが、その場合は弘樹が両方作ることになる。  朝は眠たい上にあまり時間的余裕が無く、しかも今朝のように寒い日には弁当を作る気が滅入ってしまう。  兎にも角にも今朝は無事に朝餉が出来ているようなので、階段を下りた先にあるリビングに入った。 「おはよう」  何気ない朝の挨拶を、ちょうど卵焼きの相手をしていた母親に送る。 「あら、おはよう。早く手伝って。さもないと遅刻してもしらないわよ?」  と、母親は手にしていた菜箸ですぐ隣で白い煙を上げている野菜炒めが入ったフライパンの淵を叩いた。  すぐに台所の一角に掛けられている自分のエプロンを取って身に着け、菜箸を受け取ってキャベツが焦げないように適当に泳がせた。
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