第26章 忘れられた村

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「そうだよ! 悪いのは、あの欠片だったんだから気にしちゃダメ!」  キヌアとルピスに励まされた村長は、ついに泣き出してしまった。  傍から見れば弘樹達が泣かせたようにも見える……。  十分ほどで村長は落ち着き、侘びと礼をかねてもう一晩泊ってほしいと頼まれたが、弘樹達はもう出発すると言って丁重に断った。  しかし、どうしても何か詫びをしたいと村長は言い張ったので、食糧を分けてもらえないかと弘樹が聞くと、村長はすぐに家から飛び出して村人たちに食糧を集めるように言いつけ、山のように野菜や穀物を集めてきた。  村人たちの食糧は大丈夫なのか不安になったキヌアが聞くと、まだまだ食糧は蓄えがあるので大丈夫とのこと。  弘樹達はありがたく食糧を受け取り、カバンの中に入れられるだけ入れて、村を去ることにした。  見送りの中にはミルトもおり、新たな友人と別れるのが悲しいので涙目になっている。 「大丈夫ですよ。きっとまた会えますから、元気でいてくださいね」  キヌアは耳が聞こえないミルトにも分かるように唇を動かし、彼女の金髪を優しく撫でた。  そして彼女は、村長の前に立ち、一つ質問をする。 「この村の名前は、何ですか?」 「アステン村と、我々は呼んでおります」 「とても、良い名前ですね。皆さんの繁栄を祈っています」 「不思議なことを言われる方だ……あなたがたも、お気をつけて」 「はい!」  手を振って見送ってくれる村人たちを背に、弘樹達は出発した。  もはやあの村は忘れられた村ではない。  アステン村という名を、弘樹達は心に刻み込んだのであった。
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