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潮の香りが辺りに漂い、海鳥の鳴き声が何とも耳に心地いい。
今、丘に立つ弘樹達の眼下には、目的の港町シーハーフェンが広がっている。
建ち並ぶ家々は帝都と同じように黒いレンガで造られているが、町の中には至る所に噴水が設けられ、派手に飾りつけられた帆船が停泊している。
その先には青い海原だ。
また、町から少し離れた場所に立つ真っ白な灯台が目を引く。
カールポートとはまた違う、確かに綺麗な港町という印象を受けた。
そして例によって例の如く、初めて見る本物の海にルピスは大はしゃぎだ。
また、久々の潮風を浴びることができたギルドも、どこか嬉しそうだった。
早速町に入った弘樹達は、門の近くに設置されている町の案内板を見てどこに行こうか話し合う。
どうやら、港の派手な船は専用のレストランになっているらしい。
昼食はそこで食べることにして、まずは眠るための宿を探すことにした。
町の中を歩いてみて分かったのだが、この町には至る所に水路が設けられて透明な海水が流れており、たまに水路の中に魚が泳いでいて、歩きながら弘樹達は色とりどりの魚たちを見てはしゃいだ。
しかし、弘樹の心中はあまり明るくは無い。
それは、アステン村での一件以来、ずっと考えてきたことが原因だ。
――まさか、あんな小さな村にまで闇の力が現れるとは思わなかった。この先、俺たちはまた、あの罪のない人間と戦うことになるのだろうか?
「おい、何を難しい顔をしてんだよ!」
思案にふけっていると、後頭部をギルドに叩かれた。
「あ、ごめん……」
「たく、ボケっとしていると置いていくぜ? 色々考えることもあるんだろうが、宿で寝る前に考えろ。今は、楽しむ時だぜ?」
「……そうだな。よぉし、行くぞ!」
もやもやと霞む気持ちを振り払うように、弘樹は右手を高々と突き上げて皆を先導した。
宿屋は悩んだ末に中級の四階建てホテルを選び、部屋を人数分取りたかったのだが二つしか空いておらず、ベッドの数だけは合わせることができた。
部屋割もあっさりと決まった。
弘樹、キヌア、ミオが432号室でギルド、ルピスが433号室だ。
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