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「それは、御遠慮してもらいたいな。あはは! いずれ……私が自分で言うよ」
ルピスは笑いながら、弘樹の後ろで眠っているギルドを盗み見た。
昼間に釣りに行こうとせがんだ時、ギルドは何の文句も漏らさず、むしろ快諾してくれた上に、ルピスに釣りのやり方やコツを教えた。
すると面白いように魚たちが針に食いつき、このときのルピスは、今までに無いくらい明るく笑った。また、ギルドの見事な槍の一突きに見惚れ、自分の成果を見せた時に褒めてもらったときなど、ルピスは心も身体も躍ってしまうほどであった。
「恋って、いいものだね」
「そうね。わたしは、少し前まで、人間が嫌いだったわ。いつも神殿の地下に暮して、参拝者にも冷たい視線を向けて怖がられていたわ。でも、彼に出会ってから、私は変わることができた……まだ毒舌は吐くけれど。ふふふ……」
「こ、怖いなぁ……でもミオミオは優しいと思うよ?」
「あら、どうして?」
「だって、ミオミオは吸血鬼だったんでしょ? 本当なら人の血を求めるのに、人を拒絶していた……それって、傷つけたくないっていう優しさの裏返しだと思うの」
「…………そう、なのかしら? そんな風に考えたことなんて無かったわ」
「あはは! 物事は、考え方によって良い方にも悪い方にも転ぶものだよ。だから私は良い方に考えるの! そっちの方が、楽しいもん! あはは!」
屈託のないルピスの笑顔を見て、ミオにも笑みが浮かぶ。
ここまで自分と正反対な人間がいたのかと思うと、ミオは無性に可笑しくなったのだ。
そして彼女は決めた。これからは、もう少し明るく前向きに考えてみるのも、悪くは無いかな……と。
その後も、それぞれ好きなことを好きな相手と喋りながら彼らは進んでいった。
あの大空の下に広がる、静かな草原を……。
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