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澄み渡る青空、眼下の帝都、ああ絶景かな。
と、馬上にて心中で呟いた弘樹の眼下には、真っ黒な家々が立ち並ぶ帝都が広がっている。
ここは帝都から少し離れた丘の上。シーハーフェンから出発して、ちょうど六日目の正午であった。
特にこれといった障害も無く、食糧も水も程よく消費できたので、実に快適な旅であった。丘から下りて、帝都ブレスティオスの西門に出向く。
衛兵に呼びとめられたが、身分を聞く前にキヌアの姿が目に入り、すぐに畏まった態度になって弘樹達を帝都の中に入れた。
紅い髪に翠の目……これだけで帝都では何でもできる。いわばフリーパスであった。
トタクによって死の都と化していたブレスティオスも、今となっては活気を取り戻しており、道行く人々はみな笑顔で都が幸福感で満ちている。
宮殿へ戻った弘樹達は、早速皇帝に事の次第を報告するために玉座の間へ赴いた。
絢爛な宮殿内は、ルピスにとって夢の国のようで、しきりに周囲を見回してはしゃいでいた。
扉の前に立つ衛兵に取り次いでもらうよう頼み、すぐに扉が開かれ、紅い絨毯の上を歩いて玉座へと近づく。しかし、皇帝エルムガストの姿は無かった。
側近の文官にキヌアが尋ねると、彼は次のように答えた。
「それが……皇帝陛下は現在、お忍びでカルナインへ出かけられております」
「ふぇ? カルナインへ? 何かあったんですか?」
「いえ、別に事件が起きたわけではございません。ただ……大切な恩人に挨拶に行くと仰られて」
「そうなんですか……分かりました。じゃあ、わたしたちは部屋で休みます」
「畏まりました」
父と会えないことが分かったキヌアは、どこか残念そうに微笑んだ。
キヌアの部屋ではせまいので、一同は弘樹の寝室に集合する。
ちなみに宮殿内ではキヌアはルミナとなるため、ほぼ強制的にドレス姿に着替えさせられてしまった。
「うわぁ、キヌちんがお姫様だ……」
「そ、そんなに見つめないで下さいよ……」
ルピスにじろじろと眺められたキヌアは顔を紅くして指をからませる。
「みんな同じ反応だな。くくく……」
聞こえないように小さく呟く弘樹であった。
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