9515人が本棚に入れています
本棚に追加
「今日は剣術部の朝練はあるの?」
「ないよ。でも夕方に道場へ寄るから」
出来上がったおかずを弁当箱に押し込んで、今日の昼食が完成した。
現在時刻は八時。朝食は主に弁当のおかずの残りなので、パパッと口に放り込みながら弁当を布で包んでカバンに入れ、母親に見送られながら弘樹は玄関を出た。
「うわ、寒ッ!?」
外に出ると気温は一気に下がり、吐く息はよりはっきりとした白になった。
寒いのが苦手な弘樹はさかんに手を擦り合わせながら、少しでも体を温めようと歩き始める。
だがどうしても寒気が抜けることは無く、弘樹はその場に立ち止まって軽く溜息を吐いた。
「はぁ……こう寒くっちゃ敵わないな。仕方ない、アレをやるか。本当はあまり使いたくないんだけど」
そう呟き、弘樹は静かに眼を閉じた。
そして手の平に神経を集中させると、目蓋が閉じて暗闇に包まれた眼前に、小さな紅蓮の炎が燃え上がる。
炎は徐々に勢いを増していき、弘樹が集中すればするほど大きな炎へと成長していく。
器の要な形になった手の平からは細かい火の粉が飛び出しつつあった。
そして十分炎が大きくなったところで一気に力を抜いて目を開くと、手の平から紅い炎が噴出して凍える青空に向かって燃え上がった。
「おぉ、あったけ~」
手から燃え上がる炎は冷えていた体を十分に温めてくれる。
弘樹には二年前から不思議な力が宿るようになった。それが体のどこかに意識を集中すると炎を出すこと。
俗に言う超能力者というやつだ。
このことが分かったのが、二年前の冬……ちょうど今頃の体育の授業中だった。
当時、高校一年生だった弘樹のクラスでは木枯らしが吹き荒れる寒い中、教師の独断によって広いグラウンドを一杯に使ってサッカーの試合を行っていた。
が、相手チームにはサッカー部のエースがおり、弘樹はチームとの相談の結果キーパーを任された。
持ち前の反射神経を生かして防いだシュートは数知れず、何とか後半戦の終わり近くまで0対0という鉄壁の防御を見せ付けた。
すると残り時間が五分を切ったところで相手方のエースが躍起になってしまい、何とか進出を防ごうとするディフェンダーたちを蹴散らしながら、キーパーである弘樹と一対一となった。
最初のコメントを投稿しよう!