第1章 炎を纏った少年

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 すぐにシュートを受け止めるために腰を低くして身構えたが、エースの放つシュートは弘樹の予想を上回っており、大きく脚を上げて蹴られたボールは砂塵を巻き上げながら猛スピードで迫ってくる。  ――ちょっと待て! 素人相手にそんなボール蹴るなんて大人気なくないか!?  生唾を飲み込みながら心の中で叫んだが、もう放たれたボールは誰にも止めることが出来ず、自身もアレを受け止める自信などまったくない。  凶器と化したボールが顔面に迫り、成す術も無く恐怖で身動きが取れないまま両腕で顔を守りながら目を閉じた……。  刹那、体の奥底で何かが音を立てて弾け飛び、暗闇に包まれた視界に黒い大地と真紅の空が広がる世界が見えた。  大地には黒く巨大な山々が連なっており、その全てから灼熱の炎が噴出している。  その黒い山から流れ出る溶岩が広く長い河を形成していた。  動くものは何も無い、死に包まれた炎熱地獄という言葉があまりにも当てはまる世界だった。  小学生の頃に理科の授業で見た、原始地球の映像によく似ている。  それらが脳裏に走馬灯のように一瞬流れたかと思うと、急に全身の体温が急激に上昇していき、弘樹の体から細かい火の粉が飛び散り始める。  熱かった。  とんでもなく熱かった。  体中が焦げてしまいそうになり、目の前には大きな炎が激しく燃え盛っており、もう見ていられなくなって目を開けた。  途端に全ての視界が炎で埋め尽くされ、今まさに顔面を覆う腕に直撃しようとしていたボールが、炎と爆風によって天高く吹き飛ばされた。  十秒ほどで地上に落下したボールだった丸いものは、もう見る影も無いほどに黒こげており、ゴムが焼ける嫌な匂いを周囲に撒き散らしている。  辺りは静かさに包まれている。弘樹も、クラスメートも、シュートを放ったエースも皆黙って黒焦げた元ボールを見つめていた。  一体何が起こったのか全く理解できない。  見間違いじゃなければ、さっき体から炎が出てきた。  そんなことがあるはずが無いのだけど、実際にあのボールを見たら、信じざるを得ないじゃないか。  と、内心呟いていると脆くなっていたボールが音を立てて弾けとび、皆の放心状態が解かれた。  今の今まで友好的であったクラスメートたちは、まるで化け物を見るように、畏怖と奇異が入り混じった視線を弘樹に向けている。  
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