第1章 炎を纏った少年

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 皆がなぜそんな目で自分を見るのか、混乱する弘樹が理解するまで時間がかかった。  そして気がついた……自分は普通の人間では無くなったのだと。  俄かには信じられない弘樹であったが、皆の反応と黒こげになったボールを見て、呆然とそこに立ち尽くす以外になかった……。  以来弘樹は校内で一躍有名人になった。無論、悪い意味で。  最初は大変だった。  廊下を歩けば他の生徒は逃げるように立ち去り、誰も口を利こうとしない。ショックを受けた弘樹は一時期ふさぎこんだが、何とか元に戻ろうと誠意を尽くしてクラスに接し、何とか話す程度に戻りつつある。    何度か新聞社の連中が学校へ押しかけてきたが、どうにかしらばっくれてガセネタということにしたこともある。  能力は便利である一方で、苦労した点も多い。  授業に集中して鉛筆を走らせ、ふと息を抜いたら指先から炎が出てノートが焦げてしまい、家では取れてしまった制服のボタンを縫うために針に糸を通すと、同じく炎が出て危うく絨毯に火がつくところだった。  両親は突然おかしな力に目覚めた弘樹を心配したが、流石に医者に診せるわけにもいかず、本人が特に異常は無いと言うので暫く様子を見るということで落ち着いた。  それから一年が経ち、今となっては能力にも大分慣れてきたものだ。  今ではどんなに意識を集中しても自分が炎を出したいと思わなければ出ないし、逆に出したいと思えばいつでも出せるようになるまで制御できるようになった。  というわけで、世にも珍しい超能力高校生である弘樹は手から炎を出して体を温めながら学校に向かっているというわけだ。  歩道には誰もいない。  だから存分に能力を解放でき、清々しい空気を吸いながら歩くことができる。
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