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紗弥乃は不思議な女の子だ。
性格は、明るく優しく深い。成績が抜群によいわけではないが、頭の回転は幼いころから 素晴らしくよかった。
紗弥乃は、とにかく人気があった。
幼少期から今日にいたるまで、彼女に惚れ込んだ者の数は計り知れない。
容姿は、確かに整っていた。
形の良い顔に大きな瞳、口角のきゅっと上がった口元に色白の肌。
そんな紗弥乃は今、別れた彼の話をするため、俺の部屋でくつろいでいる。
「それでね、結局別れることになっちゃった」
かすかに寂しさをたたえた目元が、俺に向けられた。
ふうっと息を吐く紗弥乃の唇は 濡れたような質感で、やはり端が甘えるように上がっている。
これが紗弥乃の魅力だ。
容姿うんぬんだけではない。
紗弥乃の自己プロデュース力は、ものすごかった。
「紗弥乃なら、またすぐに彼氏ができるよ」
なぐさめというより、事実そうだと思いながら、俺は言った。
紗弥乃がフリーになったと聞いて喜ぶのは、1人や2人ではないだろう。
「そうかもしれない。
でも、あたしはやっぱりそのうち1人になるの」
言いながら、紗弥乃は本当に不安そうな目をした。彼女はときどき、こういう目をする。
「1人を怖がるな。
俺はたいてい一人だ」
紗弥乃は、俺の顔をしげしげと眺めた。
「かっこいいのにね」
どの程度本心なのかわからないさわやかな笑顔で 彼女は俺の頬をさわった。
潤んだ瞳が、真っ直ぐにこちらを見つめている。
「そういうこと、俺にするなよ。
いまさら効果ないんだから」
冗談交じりの口調で言うと、紗弥乃はくすっと笑った。
「わかってるよ。
それに朋成は何もしなくてもあたしといてくれるってこともわかってる」
紗弥乃と俺は幼なじみだ。
家が近所で幼稚園も小、中学校も当然のように同じだった。
高校までもが同じなのは、嬉しい偶然だ。
「夕焼けがきれいだね。
この部屋から見るのが一番きれい」
窓辺に立ち、空を見上げていた紗弥乃がふり返る。
影になった表情はよく見えなかったが、美しい身体の線ははっきりとわかった。
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