小春ちゃん

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小春ちゃん

「紗弥ちゃん、予想通り告白されてたね。  いいなあ、あたしもかわいく生まれたかったな」  放課後の教室、由宇が前髪をさわりながら言うと、小春ちゃんも、うなずいた。 「生まれつき、あんな魅力的な子もいるんだよねえ」  この2人とは、今年になって同じクラスになるなり、意気投合した。  はきはきした性格の由宇と、やんわりした雰囲気の小春ちゃんはまさに好対照で、一緒にいると、自然に明るい気分になれる。  こうして放課後に、たわいのない話で盛り上がることも珍しくなかった。 「朋くん、紗弥ちゃんみたいな幼なじみがいたら、他の子に恋なんて出来ないんじゃない?」  由宇が興味津々といった顔で、俺の目をのぞき込む。 「そうでもないよ。  紗弥乃はすでに、家族感覚だから」  半ば動揺して、小春ちゃんの表情を盗み見ると、彼女は、まぶたがかゆいといってかわいらしい目をこすっていた。 「そんなものかなあ。  まあ確かにあたしも、親戚のかっこいい子とかは意識の対象にならないかも」  由宇が、教科書をバッグに入れながら笑う。 「紗弥ちゃんのね、あの笑った顔がすごく好き。  男の子でなくても、仲良くなりたいって思ってる子たくさんいるよ。  明るくて優しくて、本当にいい子だよね」  小春ちゃんは整理したプリントの束をトントンとそろえると、捨てる分を手に立ち上がった。  歩き出した小春ちゃんの後ろ姿を、思わず目で追う。  小さくてふわふわしていて、身体中からあたたかなオーラが出ている小春ちゃん。  見ていると何とも言えず、胸の中がむずがゆくなる。  目の前にある確かな明るさ、優しさを、この手に入れて大切にしたい。  そういう衝動に駆られて、どうにもならなくなる。
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