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――そうして、木々をかき分け歩き続けると、小さな泉が見えた。
水面には満天の星空が映し出される。
魔王は泉の縁に座り込むと、そっと手を伸ばし、両手で器の形を作ると水を掬った。
澄んだ水だ。
魔王はそれを口元に運び、ためらいなく嚥下する。
しんと静まり返った森の中に、水音のみが響いた。
魔王は喉の渇きが癒されるのを感じ、ふっと息をつく。
――そのときだった。
パキッと木踏みつけたような音が響き、こちらに突進してくる影が見える。
「ああああぁぁぁ!!!!!」
意味を持たない叫び声をあげながら突進してくるそれは、一直線に魔王を狙う。両の手にしっかりと握られたナイフが光った。
しかしそれを見て、魔王は驚くことはない。
冷静にそれを見つめながら左手を前に出すと、何かを呟いた。
いよいよそれが目の前までやってくると、魔王の左手の前で見えない何かが煌めき、衝突した。
鈍い音が響き、それは後ろへ倒れ尻餅をつく。その手に持っていたナイフは、無惨にも半分に折れている。
「誰だ…?」
魔王は、みっともなく尻餅をついているそれを見下しながら問う。反論は許さない。その眼はそう語っていた。
「……」
しかし、それは問いに答えることなく、あろうことか魔王を睨み返す。
栗色の髪に黒の瞳…それはどこからどうみてもただの子供であった。
「答えられないのか?」
バカにするように笑えば、少年は煮えきったように顔を真っ赤にし、「答えられるさ!」といい、すぐにしまった、といったように口を引き結ぶ。
面白い…。
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