プロローグ

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 プロローグ 暗く、音のないその空間。  彼は、そこにいた。  闇の中に浮かぶ、薄く発光する白い髪。  魔族の証たる瞳孔の細い金色の獣の瞳。  ゆるやかに流れる時のなか、彼はただ、自らの役割のみを果たして生きていた。 「退屈だ」  彼は一人、呟いた。  その言葉は空間をこだまし、むなしく響く。  いつからだろうか。この言葉が彼の口癖となったのは。  頬杖をつき、豪奢な椅子に鎮座する彼は、毎日そうして、ただ遠くを見つめていた。 「…魔王様」  不意に声がかかる。  足音ひとつなくその場に現れた存在に、彼は驚きもせず眼を向ける。  〈魔王〉それが彼役割であり、名であった。 「ああ、わかっている」  魔王は答えた。  コレが来たということは、また仕事なのだろう。 「今すぐに参られますか?」 「ああ、すぐに行こう」  答えてすぐ、二人の姿は闇に掻き消えた。
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