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 魔王に、名は存在しないものだった。  夢枕に立ち、未婚女性との営みを果たし生まれる魔王に父はなく、母の腹を裂き生まれるその存在に、名をつけるものはなかった。 真名はその身を支配するもの。すべてを支配すべき魔王にそんなものは必要がない。それゆえに、である。  魔王と呼ばれる存在はひとりではない。  しかし魂により魔王が決まるこの世界において、魔王同士が呼び合う場合、お互いが色で呼び合った。  白い魂であれば白。黒い魂であれば黒。まさにそのままであるが、それで不便はなかった。  魔王以外のものが彼らを呼ぶ場合、魔王と呼べば事足りる。  そう、名など必要のないものだった。  しかしいつからだろうか。  ひとりの魔王が、名を得たのは……。
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