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それに、そもそも今から何処に何をしに行くのかさえ話していない。
「あの子? まあ……それなら良いんだけど……えっと」
一応は疑問に思ったみたいだが、あまり細かいことを気にしない主義なのか、それ以上追求することはしなかった。
代わりに戸惑った様子で口ごもる。それに今更ながら名乗っていないことを思い出したルーラは、申し訳なさそうに微笑んだ。
「ルーラです。ご挨拶遅れてごめんなさい」
「あぁ、いや、こちらこそ。俺はアルト。で、あっちがシエン」
アルトが自分の半歩後ろを歩くシエンを指差す。シエンは何も言わず、明後日の方に顔を背けていた。
と、不意にアルトが近付いてきて、カイの耳元に口を寄せる。
「なあ、カイ。もしかしてあの子ってお前の彼女?」
「んなわけあるか、ただの幼馴染みだ」
「あんな可愛い子が幼馴染みとか、羨ましいぜ」
「可愛い? アイツが? 冗談だろ」
何を言い出すんだ、コイツは。
確かに顔も性格も悪くはない。村の同年代の中でもダントツで人気がある、と前にジンが言っていた。が、しかし………いや、ありえない。
小声でコソコソ囁き合う二人に、ルーラは首を傾げた。
「何話してるの?」
「何でもねぇよ」
ぶっきらぼうに返したカイは、足を早めて前に出る。
その背中をすぐに追いかけてきたルーラが、再び隣に並ぶ。そして大して気にした様子もなく、話題を変えた。
「それにしてもリフには困ったものよね、約束したのに来ないなんて。先に行ってるとばかり思ってたのに……狩りにはちゃんと来てたんでしょ?」
「ああ」
「じゃあ……約束してたのを忘れてたとか」
「それは無え。帰るときに一応確認したし、ちゃんと覚えてた」
むしろ久しぶりに三人揃って行けると楽しみにしていた。楽しみで昨日はあまり眠れなかったとも――。
(原因はそれか)
唐突に理由に思い至って、ルーラに気付かれないように溜め息を吐いた。
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