508人が本棚に入れています
本棚に追加
だからこそ、彼が生半可な気持ちでここに来たわけでないことくらい分かっているのに。
暫く黙っていたが、レイと自分の両隣に立つ二人の視線に耐えられず、言葉を吐き捨てた。
「……俺は帰らねぇ。んな資格、俺にはねぇんだよ」
自分の気持ちを素直に言えないカイは、レイを突き放すことを選んだ。
これで彼が諦めるとは思っていないが━━……。
そしてレイに背を向けると、振り向くことなく歩き出した。
「━━……ちょっと、カイ!」
引き留めようとするルーラの手を乱暴に振り払い、家に向かって走って行った。
残されたレイは、哀しそうに眉を下げた。
━━と、レイの後ろに小さな風が起きたと思えば、一人の青年が現れた。
「……トール」
トールと呼ばれた青年は、黒に近い青の長めの髪をポニーテールにし、レイと同じく黒のローブを羽織っていた。
レイを見る紺の瞳は、信頼を寄せる真っ直ぐな目だ。
そして初対面のルーラには、この目が何処か怖く感じられた。
「……レイ様。カイ様は見つかりましたか?」
「見つかったには見つかったのだが……、一瞬にしてフラれてしまった」
そう苦笑したレイは、次に呆然と立ち尽くすルーラ達に視線を向けた。
「君達は、カイの友達か?」
今までルーラ達のことなんて、眼中になかった筈なのに━━……。
突然話しかけられた二人は、揃って固まってしまった。
それもそうだ。
彼はこの国の……王子なのだから。
~奈早希様より~
トール
最初のコメントを投稿しよう!