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数秒も経たないうちに、中から女の人の返事が聞こえた。
それを確認してから、ギィ、という木の軋みを聞きながら扉を開ける。
「マーサおばさん、こんにちわ。
カイ、帰ってる?」
「カイなら裏にいるよ。
なんだい……、喧嘩でもしたのかい?
随分ご機嫌斜めで帰ってきたんだけど……」
中から聞こえてきた声に、ルーラは苦笑した。
部屋の中は甘い匂いで包まれている。
この匂いの元を作っていたそのふくよかな女性、マーサは優しげな笑みを浮かべた。
「んー、そうじゃないんだけど……「きっとそれは俺が原因だろうな」
ルーラの言葉を遮って、レイが直ぐ様答えた。
突然の来訪者に一瞬動きを止めたマーサだったが、年頃がルーラ達と大して変わらない彼にほ、と息を漏らした。
「なんだいルーラ、その子は新しい友達かい?」
ルーラは言葉に詰まってしまった。
まさかこの人が王子だ、なんて言える訳もない。
どうしようか考えていると、後ろに立っていたレイがルーラの横をすり抜け、家の中に入ってしまった。
「酷いな、マーサ。
俺のこと忘れたのか?」
レイがフードを脱ぐと、マーサは驚きに目を丸くした。
「まさか……レイ様!?
━━大きくなられて……」
「憶えていてくれて嬉しいよ、マーサ。
元気そうだな」
忘れていなかったマーサの反応に、レイは嬉しそうに微笑した。
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