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しかしその反対に、マーサは何処か残念そうに眉を下げた。
「カイを……連れ戻しにきたのかい?」
今まで大切に、大切に育ててきた。
自分の息子同然に━━……。
「使いは一度、送った筈だ。
18の誕生日の日、カイを迎えに行くと━━……」
大きく深い溜め息をついたマーサの豊富な胸が揺れた。
「━━……カイは裏だよ」
「ありがとう」
踵を返しドアの前で立ち止まると、従者のトールについて来ないよう釘を刺してから出ていった。
パタン、と閉まった扉を、マーサは黙って見つめた。
ついて行くか行かないかは、カイ次第だ。
自分が口を出していい問題ではない。
「いいの?マーサおばさん……」
「……カイが選ぶことだよ」
そう言って台所に戻るマーサの背中は寂しそうだった。
ルーラはそれ以上何も言うことなく、今度はトールに顔を向けた。
「トール……さん?」
「……トールでいい。何だ」
見た目は怖いトールだが、中身はそうでもないようだ。
「トールって、魔法使いでしょ?」
「……魔法使いじゃなくて魔術師だ。
それにしても……よく分かったな」
感心したようなトールの反応にルーラは微笑みながら答えた。
「……だって、カイも魔法を使えるから」
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