507人が本棚に入れています
本棚に追加
/457ページ
カイはレイの問いかけに、すぐ答えることができなかった。
頭の中では帰りたくないと思っているのに、頭の隅の方に隠れていた帰りたいという気持ちが見え隠れする。
すぐ答えられない自分に腹が立ち、ぐっと下唇を噛んだ。
「本当は……、帰りたいんじゃないのか?」
何もかも見透かしたようなレイの声。
それはカイの胸の奥に響き、カイ自身に問いかけた。
「━━……帰り、てぇよ……」
蚊の鳴くような小さな声は、彼の言葉を聞き漏らさんとするレイの耳にしっかりと届いた。
「だったら……「でも!!」
レイの言葉を、カイの強い声が遮った。
そしてレイは、それ以上何も言えなくなってしまった。
勢いよく上げたカイの目には、本当にうっすらだが涙が浮かんでいたからだ。
「……でも俺はっ……、国王本人に追放されたんだぞ!!
……今更……戻れる訳ねぇだろ」
突然城の外に連れ出された幼い自分。
父親である国王は、何故かその時だけ笑っていた。
だから少し安心したんだ。
やっとその笑顔が自分に向いてくれたと━━……。
でもそれは、まやかしの笑顔だった。
『ちょっとここで待ってなさい』
その言葉を素直に聞き入れたカイの元に、父王が戻ってくることはなかった。
"あぁ、捨てられたんだ"、と思ったのは大分後のことで。
真冬の寒さに、だんだんと気が遠くなっていった。
最初のコメントを投稿しよう!