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漸く訪れた初春の暖かな風が、街全体を包み込むように優しく吹いていた。
街外れにあるこの村からは、今日の式典の騒ぎが遠くに聞こえる。
長さがまばらな芝生の上で日向ぼっこをする少年は、春風に流されて微かに聞こえる街の賑やかな声を片耳で聞いていた。
━━また
この日が来てしまった。
皆が楽しみにしているこの日は、18歳になるこの少年にとって1年の中で一番来て欲しくない日だ。
「カイ~!こんなトコで何やってんのさ」
「今日は特別の日だってのに、浮かない顔ね」
先程まで見えていた空が、二つの顔で覆い隠された。
「……近ぇよ」
紫暗の瞳を不機嫌そうに細めながら体を起こすと、同時に二つの頭が引いた。
少し長めに切り揃えられた赤銅色の頭に紫暗の瞳は、無愛想な彼によく似合っていた。
民間人にしては整い過ぎた容姿は、周りから見て美形の部類に入る。
そのくせ自覚がないときた。
見た目に似合わない口の悪さは、そのせいだろう。
しかし、その違和感が全くないのは何故だろうか。
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