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サク、サク、とパイを噛じる音が隣から聞こえる。
「ねぇ……、カイって王子様だったんだね」
突如沈黙を破ったのはルーラ。
声色からして、聞きにくいことを遠慮がちに━━……といった所だろうか。
いつものルーラに似合わず、声が沈んで聞こえた。
カイは思わずビク、と肩を震わせ息を飲んだ。
「レイ王子から聞いたの。
カイがこの国の……第一王子だって…………。
マーサおばさんも……お城の人間だったんでしょ?付き人……なのかな」
ルーラは何も答えないカイに構わず続ける。
カイはただ黙って、地面に視線を落としていた。
でも、驚き戸惑っていることは分かる。
そして……怖れていることも。
だってカイの肩が微かに震えていたから━━……。
「━━……付き人じゃなくて……乳母だ……」
呟くように発せられたカイの声は、肩と同じように微かに震えていた。
「…カイがマーサおばさんを名前で呼んでた理由が、やっと分かったわ……。
マーサおばさんがカイの本当の親じゃないことは薄々気付いていたけど…………」
でも信じたくなかった。
ルーラや村の人達から見たら、カイとマーサは本当の親子みたいだったから。
「ねぇカイ……憶えてる?
私とカイとリフの三人で行った、あの湖のことを…………」
ルーラは静かに目を閉じ、記憶の扉を開いた。
思い出されるのは、まだ6歳の自分達━━……。
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