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珍しく取り乱すカイを目の当たりにし、ルーラとリフは動揺していた。
普段、何があっても冷静に対処していたあのカイが興奮している。
それだけではない。
目の前には、鏡を写したようなもう一人のカイ。
先程のカイの言葉からすると、彼がこの国のレイ王子らしい。
(知り合い……なの?
でも……彼は王子でしょ!?いつそんな身分の人と知り合ったっていうのよ。
それに、何でこんなにそっくりなの?
分からないことだらけだわ…。
教えてよ……、ねぇカイ……。)
ルーラは視線でカイに訴え掛けてみるものの、肝心のカイはレイをずっと睨み付けたまま。
一体この二人の間に何があったのか。
自分を睨み付けるカイの視線に耐えきれなくなったのか、それとも時間があまりないのか、レイが不意に口を開いた。
「━━……お前を、迎えにきた」
彼の真っ直ぐな視線を、カイの紫暗の瞳が受け止める。
「……迎えにだと……。何の為に!」
威嚇的な態度のカイに怯むことなく、レイはカイの瞳をしっかりと見据えた。
「……母上は、お前を護れなかったことを悔いていらっしゃる。……無論、俺もそうだ。そのせいで母上は、この15年間床に伏したままだ。
そして毎年この日になると、お前に会いたいと泣いている」
そこで一度言葉を止めると、カイの様子を伺う。
カイは地面に視線を落とし、黙ってレイの言葉に耳を傾けていた。
それを見て満足そうに小さく頷くと、言葉を続けた。
「あの時の俺には何の力もなかった。だから今まで、それといった行動ができなかった。
でも今は違う。あの人の考えは俺には分からない。
だから……従うつもりもない。
俺は俺の意思でお前を迎えにきた」
レイはここまで言い終わると、カイの返事を待った。
カイを真っ直ぐ捉えて離さない彼の目は、真剣そのもの。
その意思の堅さは、城の誰よりもカイがよく知っていた。
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