新たな日常

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 昼を過ぎ、少しずつ客足が減ってきたのを確認して奥へ引っ込む。元から繁盛していると言えるほど客は来ないから、鈴一人でも十分な筈だ。  奥には簡単なキッチンがあり、そこでマスターがBセットを作っていた。プレートにはとろとろ卵のオムライスにマスター特性のソースがかけられていて、付け合わせのサラダもシャキシャキと音が鳴りそうな瑞々しさ。ついごくりと喉を鳴らす俺を、マスターが見やった。 「コウガ…今は営業中だろう。鈴に任せっきりとなると、それ相応に給料は引かせてもらうが?」  どうして俺が此処に来ているのか、予想がつかない筈が無いだろうに、マスターは冗談で流そうとする。なかなか頑固な所は、親子揃って同じだと思った。 「ちょっと様子を見に来たんですよ。卵、そろそろなくなりかけてたんじゃないかと思いまして」  嘘ではない。しかし、本当の目的がそれな訳でもない。ただ、目的自体はマスターの顔を見るだけでよかったし、それをわざわざ言う必要もない。マスター自身、俺が此処に来た目的も理解している筈だ。  なのに、そうかと言い微笑む彼も、それで?と訊ねる自分も。大概道化だなと思った。 「そろそろ足りないかもしれないな…。宮内さんの所で、二ダース程頼む」 「了解です」  マスターは、つい先日。一週間ほど前だ。――突然、倒れた。顔に出してはいなかったけれど、身体は休養を欲していたようで。  過労や睡眠不足といった症状で、二日ほど入院することになった。もうすぐ五十四になる身体には、些か普段の生活が厳しかったようだ。出来るだけマスターの負担にならないようにはやってきたつもりだったけれど、いざマスターが寝込むとなると、俺には何も出来なかった。  ということで、所々で空き時間があれば、俺も鈴もマスターの健康状態をチェック、という状況になっている。 「宮内さーん、卵二ダースお願いしまーす」  料理は自分には出来ないし、鈴も一度試したがオーブンが嫌な音を出し、動かなくなったことがあるらしい。だからせめてコーヒーや紅茶ぐらいは、と思うのだが、まだマスターに及第点は貰えていない。 「はいよ。金は店宛の請求でいいんだよな」 「あ、はい。有り難う御座います」  このままでは駄目だよな。そう考えながら、スーパー宮内を離れる。  途中、すれ違った強面の男性二人が。何故だか、頭の隅にこびりついて取れなかった。  
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