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実際、大の大人が目にうっすらと涙を浮かべハンカチを噛み、その上女言葉とくれば…辛辣な言葉も出てくるだろう。
「酷いわ…! ――とまあ、冗談は止しておこうか。それより、どうした。おまえが俺を呼ぶなんて、珍しいな」
青年の言葉に律儀に返事をした後、男性は率直に用件を訪ねた。話口調を変えた途端どこか威圧感のある空気が漂うのは、その頭の傷が伊達ではないということだろう。
青年はしばし男性に呆れたような視線を送ってから、問うた。
「どうして組を解散するんだ? ――辞めるなら、今更だろう?それに、あいつらだってそこそこいい奴らだ。路頭に迷うなんて、俺は赦さねーぞ?親父」
真剣な表情で男性を見据え話す青年に、男性はその二ヶ月剃っていない無精髭を触りながら笑った。いい顔をするようになったな、と思いながら。
直ぐに返事をしない男性に苛立ちをぶつけるように、青年は続けた。
「仁義を守る。そのルールを守れば来るもの拒まず。これがあんたの組だろ?…あんたが仁義を破るっていうのか…!?」
少し目を丸くした男性に、青年は興奮してきたか、声を荒げる。右手を後方に持っていこうとする青年を、男性は静かな一言と殺気で止めた。
「やめなさい」
びくりと跳び跳ねる肩に舌打ちをし、青年は男性をしっかり見た。少し悲しげに歪められた眉に少しの罪悪感が生まれる。だが、それを振り払うように青年は言った。それは、もう後戻りはできないのだという後悔が混じっていたのかもしれない。
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