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「いつもいつも…なんであんたは一人で突っ走るんだよっ!?考えろよ!少しぐらい!俺たちに説明や相談くらい、したって構わねぇだろ!? なんであんたはっ!いつも、…っいつも!」
言葉の途中から、溢れるものが止められなくなる。喉に引っ掛かって、うまく話すことができなくなる。ただ、頭の中を駆け巡る映像を、その想いを、必死に紡ごうとした。
寝てしまったかのような、安らかな顔。青白い肌。動かない指。冷たい身体。ただ深い眠りについているようにしか見えないその姿に、意思も心も存在しない。もう、空っぽ。
ただ、好きだった。ただ、大切だった。
ただ、守りたかった。ただ、悲しかった。
白いベッドで横たわる女性は、もう動くことがない。もう、自分の頭を撫でて笑んでくれない。もう、
『…死んだんだよ』
ただ、冷たい言葉が痛かった。
「親父なんか…っ!!」
上下する肩は心の奥底の感情を引っ張り出した代償。止まらない言葉は、見栄と意地とよくわからない怒りの捌け口。
そして、激情は思ってもいない言葉を形にする。
「いなけりゃよかったのに――っ」
途端に表情をなくす男性に、青年はあ…と呟く。気付いた過ちは、直すことはできない。
そうか、と男性は言った。空っぽな顔は、記憶の中の母そっくりだった。
「――じゃあ、バイバイ、だな。琥冬組組長としての、最後の命令だ。帰ってくるな」
厳しい表情になり、有無を言わさぬ勢いで男性は命ずる。それは上に立つには相応しいもので、かすかな言葉の揺れをも出さぬ、仮面となった。
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