壱ノ華 『月下』

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息が切れるほどに走っていた。 こんなにも必死に走ったのは、 いつぶりだろうか。 そんなことをじっくり思案する 暇さえも、追っ手は与えてくれ ない。  十……いや、二十か。  先程よりも増えたな。 生まれながらにして追われる身。 こんなことは慣れているはず。 だが、今日は相手が悪すぎた。 普段なら真正面から相手をして やるのだが、どうも無傷では帰 してくれそうにもない。  さて、どうしたものか。 物思いに耽りすぎたか、気付け ば森から出てしまっていた。先 程までの薄暗さは消え去り、月 明かりに照らされた背の低い草 原の中を駆け抜ける。 こんな時ばかりは、長く伸ばし た髪が鬱陶しくて仕方ない。高 い位置で纏めたそれは、自分が 歩を進めるたびに激しく上下に 揺れた。 チャキ……と、左手に掴む愛刀 が啼く。まるで戦わせてくれと、 乞うように。  今は待て。お前を抜けば後戻  りはできない。奴らは死ぬが、  俺も手傷を負うことになる。 心の中で語りかける。それきり 刃は、黙り込んだ。 ザッ、と強く踏み込み、焦燥感 と供に足を止めた。前を見れば、 敵の仲間が十人ほど待ち構えて いる。 背後からの足音の数が減ってい た。どうやら、回り込まれたら しい。 .
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