壱ノ華 『月下』

3/14
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/87ページ
既に抜刀し、今にも襲いかから んとする気配。周囲に満ちるは 月の冷気と、それよりも冷たい 殺気。 「やれやれ……。囲まれてしま ったか」 困った顔をして呟いた。 どうやら敵は、一度に襲いかか ってくるつもりらしい。頭の合 図を待ち、身動きひとつ取らな い。  ……むしろ、好都合というも  のだろう。さぁ、早く俺を殺  しに来い。 そう思った時だった。すべての 敵が突然に走り出し、一気に間 合いを詰めてきたのは。 迫り来る二十の足音。重苦しい 圧迫感を覚えた。 あと五、六歩のところまで敵が 迫ったそのとき、漸く俺は呼ん だ。 「……右京〔うきょう〕」 .
/87ページ

最初のコメントを投稿しよう!