壱ノ華 『月下』

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「気を付けろ。先程は不意打ち だからよかったものの、相手は 相当の手練れだ。次は簡単には いかないぞ」 「はい。御助言、ありがたく承 ります」 更に深く頭を下げた後、右京は すっと立ち上がり敵に対峙した。 初め、何が起こったのか把握で きないでいた敵も、今は闘志を 剥き出しにしてこちらを睨み付 けている。 奴らにしてみれば、片付けるべ き獲物がひとり増えたに過ぎな いのだろう。 右京は静かに刃を抜くと、美し い装飾の施された鞘を、何のた めらいもなく放り捨てた。 現れたのは白銀の片刃。右京の 最も愛する名刀、秋霖白風 〔しゅうりんのしらかぜ〕だ。 秋雨のように冷たく、風のよう に迅く。 まるで奴そのものだと、いつも 俺は思う。 星の数ほど存在する人間の中で、 あれほど刃に愛された者はいない。 奴には秋霖白風が、よく似合う。 .
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