壱ノ華 『月下』

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そうこう考えているうちに、両 者は動き出していた。 右京は自分に一番近い敵から、 ……否、俺に一番近い敵から順 に、相手をしていく。 流石は、己を華鬘草〔ケマンソウ〕 だと言うだけのことはある。 どうやら敵も、右京の腕がかな りのものであると気付いたよう だ。狙いを俺から右京に変え、 確実に仕留めようと試みる。 三本の刃が同時に振りかぶり、 右京を襲った。しかし奴は、そ れらをすべて秋霖白風だけで受 け止めてしまう。 三人もの人間の力に一人で堪え、 むしろ押し返さんとする勢いだ。 だが、敵も甘くない。身動きの 取れない右京を、背後から襲う 者がいた。 「右京……ッ!」 俺が名を呼ぶのと同時、右京の 左肩が斬り裂かれる。 奴は敵の攻撃を避けようと身を 捩りはしたものの、やはりそれ には無理があった。 「くっ……」 右京は渾身の力で敵の刃共を弾 き飛ばし、跳躍して間合いを取 る。 傷口からは血が滲み出していた。 荒くなった息を整えようと、一 度深く空気を吸い込み、ゆっく りと吐き出す。 ただそれだけで、右京は冬の湖 面のような冷静さを取り戻した。 .
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