壱ノ華 『月下』

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肩の怪我など僅かばかりも気に なりはしないとでも言うかのよ うに、右京は平然とした顔立ち で敵を睨み付ける。 それが俺に心配をかけたくない という、奴の強がりでしかない ということは十二分に承知して いた。だから俺は何も言わず、 ただ奴が戦う姿を見守ことにす る。 残る敵は十四人。 そのうち数人は既に右京によっ て怪我を負わされていたが、ほ とんどがまだ無傷といった状態 だ。 元より多勢に無勢。流石の右京 でも不利ではあったのだ。  ……さぁ、これからどう戦う  つもりだ? 右京よ。 ふっと、自然に笑みがこぼれる。 右京の闘いは、いつ見てもおも しろい。 右京は軽く息を吐くと、一気に 駆け出した。怪我を負った左肩 を庇う様子もなく、真正面から。 敵は突っ込んでくる右京を、真 横に薙ごうする。だが、右京は しゃがみ込んでそれを回避。両 の手を地面につくと、右足で敵 の顎を蹴り上げた。 走り込んできた勢いをそのまま 乗せた蹴りは、敵の顎を砕かん とする威力だ。  ……残念だったな。右京の強  さは、剣術だけではないぞ。 そう、それだからこそ、自分の 右腕として常に傍に置いている のだから。 .
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