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三月十日、竹内由麻は教室を出た。
さっき、教科書で見た内臓の映像が頭に張りついているので、すぐに昼食を食べる気にならなかった。彼女は医学部である。
医学部の教室がある棟を出て、一番近いベンチに座った。
ポケットから携帯電話を取り出して、メールを確認する、友人から届いたメールをリプライして、ついでに双山に電話をかける。
彼とは三日前のファミレスから会っていなかったので、久しぶりに会おうとした。
しばらくコールして相手が出た。
「もしもし」双山の声である。
「今何してる?」
「村崎と居る」
「また村崎君と居るの?双山君ってそっち系?」
「何?そっち系って?」
言ってはみたものの、双山と村崎は同じ学部なので、一緒に居る確率は高い。
「今から会えない?」明るい声で言ってみる。
「おっ、なかなかセクシィな台詞だね、それ」双山が笑いながら言った。
「会うの、会わないの、どっち?」
「そんな怒らないで、今どこ?」
「医学部がある棟の前」
「わかった、村崎と行くよ、それじゃあ」
電話がきれた。
今まで一度として、双山と二人きりになった事がない、別にそれがどうって事はないけど。
由麻は歯医者の待ち時間の様に長い長い溜め息を吐いた。
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