プロローグ

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 その事件は1994年三月二日に起こった。  愛知県、名古屋市内に建っている、一般的な規模のビルの小さな駐車場で、一人の女性が死体で発見された。  彼女は腹部を数回にわたってナイフの様な刃物で刺されており、検屍の結果、死因は出血多量ということがわかった。  第一発見者も、駐車場から道路に血が流れているのを発見し、血液の赤い川を辿っていき、被害者の女性が倒れているところを発見したのである。  第一発見者が救急車を呼び、救急車が到着して十分後にはパトカーも立体駐車場に到着し、その時に女性の死亡が確認された。  さて、ここまでの情報からは刃物で腹部を数回刺されている以外には何の特異性も感じられないが、もちろん、この死体に関する情報はこれだけではない。  何と、この死体は刃物で胸部を開かれ、死体の心臓がそっくり切り出されていた。そして、警察が勢力を尽くし近辺を捜索した結果、彼女の心臓、少なくとも生物の心臓は発見されなかった。  つまり、彼女を殺した犯人は、殺した人間の胸を開き、心臓をそっくり切り出して、なおかつ、それをそのまま持って帰ったのである。  それらの特異性は、愛知県、否、日本のマスコミの興奮に拍車をかけたのだった。  しかし、その後の警察の懸命な捜査も虚しく、15年後の三月二日に時効を迎えたのであった。
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