矛盾の綺麗さと殺人の美的さ

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1  2009年三月七日。双山恭介は大学の図書館で、閲覧室の丸いテーブルに新聞を広げ、地元のページを読んでいた。  新聞には五日前に瀬戸市内で起こった殺人事件は、もはや一面からは弾かれていたが、地元のページを広々と独占している。  三日前に、政治家の秘書が逮捕された為、瀬戸市内の殺人が一面を独占していたのは、僅か一日だった。その代わり、地元のページは五日間、殺人の記事が独占していた。  双山が新聞を読んでいると、閲覧室の扉が開く音が聞こえてきた。そちらを見ると、竹内由麻が入って来た。彼女は音が鳴らないように扉をゆっくりと閉め、閲覧室を見渡して、こちらに歩いてくる。  「やっと見つけた、何で図書館なんかに居るの?」竹内由麻は二脚ある椅子の一つに腰掛ける。  「僕の家は新聞とってないから」双山は彼女が隣に座って緊張していたので、意識して、ちゃんとした発音でいう。  「そうなの」竹内由麻はテーブルに肩肘をつき、小さい顔を片手の手の平に乗せて、テーブルの上の新聞を読んでいる。  双山は彼女の横顔をしばらく見ていた、髪は黒くショートヘアで、左耳に付いているピアスもしっかりと見えた。子供のような顔立ちをしていて、大きな瞳をしている、女優にもなれるだろう。  彼女が顔を上げたので、双山は慌てて、視線を逸らした。  「この事件前にもあったんだって、お兄ちゃんが言ってた」竹内由麻が大きな瞳をこちらに向けていう。  「何でそんな事知ってるの?」双山はなるべく、彼女の顔を見ずに言った。  「私のお兄ちゃんってね、愛知県警の刑事だよ」竹内由麻は目を細めて笑う。  「前にもあったっていうと?」双山は新聞を畳ながら尋ねた。  「何かね、前にも心臓を取り出されて死んでる人がいたんだって」竹内由麻は顔を顰めて、首を左右に振った。「気持ち悪いよぅ」  「じゃあ連続殺人じゃん」双山は閲覧室の扉を見ながら話す、もちろん、そこに何があるわけではなく、竹内由麻の顔を見ないようにするためである。  「あっ、でもでも、前に起こった事件はもう時効なんだって」竹内由麻は片手を顔の位置まで上げて、左右に振った。  「ふーん」  「何、ふーんって、話聞いてよ」  「僕、ここ出るよ、煙草吸いたくなってきたから」双山は新聞を持って立ち上がる。少しのタイムラグがあったが、竹内由麻も立ち上がった。  新聞を元の位置に戻し、二人は図書館を出た。
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