矛盾の綺麗さと殺人の美的さ

3/18
22人が本棚に入れています
本棚に追加
/44ページ
 二人は図書館のある建物を出て、道をしばらく歩き、円柱型の灰皿を見つけ、双山は煙草に火をつけた。 由麻は煙草を吸わないので、隣のベンチに腰掛け、携帯電話をいじっている。  双山は煙草を吸いながら、学生棟の入り口をぼんやりと見ていた。すると、学生棟の中から茶髪の男がショルダーバッグを掛けながら出てきた。友人の村崎青次だとすぐわかった。双山は学生棟の前に居る村崎に声をかける。由麻も立ち上がり、学生棟の方を見ている。  村崎はこちらを向き、無言で歩いてきた。  「もう、帰んの?」双山が村崎に尋ねる。時刻は午後三時、帰るには少し早い時刻である。  「いや、授業は無いけど、暇だから、まだ居ようと思う」村崎はそこで言葉を切り、由麻の顔を一度見た。「何?デート?」  「違うよ、図書館で会って、二人で行動してるだけ」双山は無表情でいう。  「世間ではそれをデートと呼ぶ」村崎はポケットから煙草を取り出し、火をつけた。彼の吸っている煙草の独特な香りがした。  「デートだよ、何?村崎君やきもち?」由麻が魔女の様な笑顔を浮かべて言った。  「自分以外の男がモテてると不快はある」村崎は灰皿の縁で煙草を叩いた。顔は相変わらず、無表情である。 「きゃあ、どうしよう私モテモテ?」由麻は両方の頬に手を当てて笑った。「どうしよう、二人共、私を取り合って、殺人なんて事はやめてよ」  「瀬戸市の殺人ってどうなってんだろ?」村崎が双山に尋ねる。  「うわぁぁ、無視だ、酷いよう」  「どうなんだろう、犯人はまだ捕まってないみたいだけど」双山が答える。会話は双山と村崎だけで成立している。  「15年前にも殺人があったらしい」村崎が言う。しかし、双山はその情報を既に由麻から聞いていたので、驚きはしない。  「らしいね、竹内から聞いた、彼女の兄さんが愛知県警の刑事なんだってさ」双山は短くなった煙草を灰皿に捨てた。  「本当に?」村崎が由麻にきく、この情報には驚いたようだ。  「うんうん、何でも被害者の心臓が切り出されていたんだって」由麻は意気揚々と喋った。先程まで燻っていた好奇心が村崎の質問によって吹き出したらしい。  「それ本当だったんだ、ネットで噂になってたけど」双山は由麻を見る。「新聞には書いてなかったしなぁ」
/44ページ

最初のコメントを投稿しよう!