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「あなたも忙しいからこんなわがままなんて、本当は言ってはいけない筈なのかも、しれませんけれど」
日の当たる白い部屋はまるで監獄のようだと感じた。寝具のまわりをかこうカーテンはさながら檻のよう。
暖かい日差しを浴びながらやわらかい彼女の言葉を聞くと、さらに暖かい気持ちになることに気づいたのは数週間前。
「こうやって、一週間のうちきっちり2日、来てくれるだけでも私はすごく幸せです。でも、」
そこまで言うと彼女は、くっ、と、唇を噛み締めた。『言ってはいけない』と『言ってしまいたい』という相反する気持ちが、言葉が彼女のやわらかい心の中でせめぎあっているのだ。
やがて震える唇が開き、彼女の気持ちが蚊の鳴くような声で、僕に届いた
「もっと、たくさん、会いに…いらして、ください」
そう口走った彼女を思い切り抱きしめてやりたかった。
ふわりと額を隠す前髪の造形も唇も何もかも愛しくて仕方がない。
電車に揺られながら、やわらかく笑う彼女を思い浮かべていたら、鍵を家に忘れてきてしまったことを思い出した。
ちいさい舌打ちは電車の轟音にかき消された。
一駅、一駅、
彼女に近づいてくることが感じられると高鳴る胸の鼓動を抑えられないことに気づいた。
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