序章

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 喧噪。  活気。  音楽。  この街の商業地区のほぼ中央に位置するこの広場には、早朝から深夜まで有名無名数多くの吟遊詩人達が、様々な音楽を歌い奏でていた。  ロードと呼ばれるこの街は島の交通の要所にあり、昔から商業都市として発展してきた。  そのため、多くの人々が行き交うこの街には、真実と虚構の情報や伝統が様々な形で残されている。  詩人達の歌う詩もその伝統の一つなのだ。  彼等の目的は三種類ほど見受けることができる。  一つはお金。歌が巧く、人通りのいい場所を選べば、たった数時間で数日分の生活費を得ることも難しい事ではない。  無論、そういう者はここにいる彼等の一握りにも満たない人数であるのだが。  ここを通る者達は、彼等に対してお金をケチるようなことはあまりしない。それがここでの習わしでもある。  ただ、誰も彼もにではなく、歌を聴き、上手いと感じた者にだけ祝儀を入れることになっている。同情票というのはこの広場には存在しないのだ。  もう一つが名声。ここで名が売れると、各地の富豪や名士から招待される事になる。誰かのお抱え吟遊詩人と言うのは、全員とはいかないまでも、かなりの詩人が夢見ることだ。  お抱え詩人と言うことは、少なくとも、その人物に自分の歌を認めてもらったと言うことに他ならないのだから。  最後の一つが詩を伝え続けること。今でも、昔の英雄譚が語り継がれているのも、彼等がこの気持ちを持ち続けているからだ。  もちろん、長い年月口伝のみで伝えられ、多くの人に聞かせる事でもあるため、できた頃の話とは全く違う詩というのも珍しくはない。  そんな彼等の中に、最近吟遊詩人として始めたのであろう一人の少年が歌っている。  場所もあまり良い所とは言えず、もちろん詩人としての能力も駆けだし相応しかない。  それでも彼は、一生懸命歌い続けている。  この島に伝わる、  ある有名な物語を
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