楽しかったあの頃。

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「あぁ、楽しかったなぁ!」 バスに乗って学校までの帰り道、僕はそう満足げに言った。 中学一年生の最大の行事、修学旅行。 見たことも行ったこともない土地に集団で行くというもの。 説明だけでは、そんなの楽しいのか?と思う人も少なくないはずだ。 だけど、実際にはそりゃあもう楽しい。 友達とバスでトランプなどではしゃぎ、みんなで豪華な夕食を食べ、布団を敷いて消灯の時まで、枕投げをして遊んだり、楽しいことで溢れていた。 まぁ、僕…というより、僕の班の場合は消灯時に先生に枕投げをしている所を見つかって途中で中止になったんだけどね。 そして夜はなんと言っても男同士の秘密の語り合い! 男同士でなに言っちゃってんだ、と思うのも無理はない。 だけど、語らずにはいられない秘密の一つや二つ、皆もあるだろ? まぁ、それを秘密というのかは、はなはだ疑問だけど。 一番の定番と言えば好きな娘は誰か? 言うのは恥ずかしいとも思うが秘密を共有しあうっていいだろ? あの時もそんなこんなで修学旅行、最初の一日が終わろうとしていた。 「くそっ、まさかあそこで大王が来るとは…」 掛け布団を被りながら悔しそうに呟いているのは僕、西野 ハジメの小学校からの悪友、掛井 鍵斗。「はは、鍵ははしゃぎすぎなんだよ。大王が廊下まで鍵の声が聞こえてたって言ってたよ」 大王こと僕らのクラスの担任、大門路 王樹、通称大王。 命名者は鍵。 中学入学時に大王の名前を聞いて耳によく通る大きな声で『大門路 王樹だって!?略して大王じゃん!』、と言ったのがきっかけとなり大王と呼ばれるようになった。 その後はもちろん鍵は生徒指導室でみっちり絞られた。 中学の始めの日で指導室に呼ばれた奴を見たのはこれが初めてだった。 「俺の声がでかいって言うならハジメだって大王に声がデケェって言われてたじゃねえか」 「僕もっ!?そんなに大きな声だしてたっけ?」 初めての修学旅行ではしゃぎすぎたのかな? 「まさか、お前みたいな優等生が先生の話を聞いてないなんてな」 「なんてたって、鍵に鍛えられたからね」 多分、悪知恵をフルに働かせても鍵の足元にも及ばないと思う。 「なんだその言い方は!それじゃあ俺が悪の塊みたいじゃねぇか!」 次の瞬間、瞬く間に掛け布団で体を拘束された。
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