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彼のポリポリ食べる音が止まる。
…妙な沈黙に、はた、と我に返った。
「いや、食べてていいんやけどね…」
「おう」
ポリポリ…ポリポリ…
「……なんで、別れそうなん?いや、それ以前に彼女おったん!みたいな…いや、まあ、別にどうでもいいんやけどさ…」
「うーん…」
彼はずずーっとお茶を啜った。
「別に…なんかそんな感じなだけやな…。
お前とは年に数回、実家に帰ったとき会うくらいやけんなあ、なかなか言う機会が特に無かったけんなあ」
「そんな感じって…そんなもん?」
「うーん…」
彼は気だるげに息を吐いた。
「俺は大学卒業したら…来年度だな、こっちに戻って来ようと思って。」
意外な彼の言葉にまた面食らった。
「ええ!?なんで!?あんなに家を出たがってたのに?」
彼は落ち着き払った口調で続ける。
「いや、すぐには家には帰らん、まずは一人暮らしして就職するわ。けど、後々、将来的には家業を継ごうと思って。そう考えると、卒業後、働くのもここがいいやろ。この土地で働いてた方が、家を継ぐ時に役に立つと思ってな」
「……へえ…」
彼が先の事を見据えてこんなに物事を考えているとは思ってもみなかった。
よく知っているつもりの幼馴染が、急に遠く感じた。
彼の事、あまり知らないんだ。
そうだ、今の彼の事。
きっと、彼女の方が、よく知っている。
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