あの人が私を呼ぶ声

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「ねぇ、お金。どうなさるつもりですか?」 「…なんとか、します」 消え入りそうな声で言った。 「なんとかって言ってもねぇ。パリ出発まであと2ヶ月もないんでしょ? 百貨店の店員なんて、あんま稼げそうにないけど? 間に合わないでしょう」 …その通りだ。 男の言うことは悔しいことに事実だった。 給料なんて生活費ですぐ飛ぶ。 貯金を全てあてても5000万なんて到底返せる額じゃなかった。 私はぎゅっと唇をかみしめた。 「お姉さん、25だよね? でも全然25とかに見えないし、かわいいから、夜で稼いでもらうしかないかもしれませんねぇ」 私はさらにうつむいた。 涙、こぼれそう…。 「まぁどっちにしろ、パリ行きはなしですよね」 私の頭の中で、パリの生活がガラガラと音を立てて壊れた瞬間だった。 覚悟はしていた…。
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