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「それに?何?」
「お父さんだって、言ったよ。お前が男だからむかつくってね。」
「確かに父は自分の本当の息子を可愛がっていた。私の弟はね。でも、年上に当たる智成が長男になる状態に我慢できなかったようだね。それが虐待の主因だったらしい。
しかし、まさかそんな発言を浴びせるなんて。私は自分の父を最低な人間だと思った。」
「みのり姉ちゃんは僕の邪魔をするつもり?僕が死んじゃってもいいの?」
「「死」という言葉が出た瞬間、私はこれ以上、反論したら取り返しがつかなくなる事態が起きそうで怖かった。」
「でも、このままではいけない。何とか男の子に戻って欲しい。その方法を見つける為、私はこの高校に入ったの」
「ごめん、相談しに来てくれたのに、一方的にしゃべっちゃって。」
みのりは謝った。
「いいよ、いいよ。長澤さんも大変だね。」
詩織が答えた。
「詩織ちゃん、私は確かに大きな悩みは抱えている。でも、それを苦痛と思ったらしんどいだけ。何も生み出さない。
それに悩みの大小というのは他人には計れないと思う。もちろん、その道の専門家とか経験者は計りやすいかもしれないけど、それでも正確だとは言えないと思う。
「栗原さんは、自分の悩みがちっぽけって片付けられてほしいの?」
詩織は改めて考えてみた。そんな風に他人から言われたのは初めてだ。
「むかつくかな?私の何を知っているの?って思う」
「それが普通だよ。だから、自分を卑下することはないんじゃない。まだ戻れないなら、それでも、いいんじゃない。
私は智成を戻したいとは思う。でも、詩織ちゃんに対しては、そうするつもりはないから。」
みのりとの話の後、詩織は考え、もうしばらくはこの高校に止どまろうと結論を下した。
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