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目の前に欲しいものがあれば、それは有難く頂戴するというのが、
ウツミヤ アラシ
写宮 嵐 の信条だ。
据え膳が自分の前に無防備に置かれているというのに、それに手を伸ばさないのは、むしろ裏を読みすぎた自意識過剰だ。
欲しいのなら、そしてそれが「どうぞ」と言わんばかりに腕を広げて招いているのだとしたら、もう頂くしかない。そこを深読みしすぎると、後でもったいなかったと後悔をする。
──しかし。
それをよく知っているはずの写宮は今現在、その信条に逆らわなければならない状況にいた。
予想外な展開ではなかった。いつかはこういう瞬間がくることを、彼は心のどこかで感じていた。
しかし、目を逸らしていた。
彼には、“据え膳食わざるは損なり”の信条の他に、心に固く決めた誓いがあったからだ。そしてそれは、“据え膳食わざるは損なり”の信条を邪魔する、禁欲的な誓いであった。
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