世界で一番くだらない特別読み切り

2/8
前へ
/22ページ
次へ
   目の前に欲しいものがあれば、それは有難く頂戴するというのが、 ウツミヤ アラシ 写宮 嵐 の信条だ。  据え膳が自分の前に無防備に置かれているというのに、それに手を伸ばさないのは、むしろ裏を読みすぎた自意識過剰だ。  欲しいのなら、そしてそれが「どうぞ」と言わんばかりに腕を広げて招いているのだとしたら、もう頂くしかない。そこを深読みしすぎると、後でもったいなかったと後悔をする。  ──しかし。  それをよく知っているはずの写宮は今現在、その信条に逆らわなければならない状況にいた。  予想外な展開ではなかった。いつかはこういう瞬間がくることを、彼は心のどこかで感じていた。  しかし、目を逸らしていた。  彼には、“据え膳食わざるは損なり”の信条の他に、心に固く決めた誓いがあったからだ。そしてそれは、“据え膳食わざるは損なり”の信条を邪魔する、禁欲的な誓いであった。  
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

276人が本棚に入れています
本棚に追加