訪問

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「じゃあ、約束。」 そう言って、右手の小指を出す。 この歳になって指切りなんて。 そう思いつつ、そっと小指を絡ませた。 その後は、たわいない話をした。 優人さんの会社での出来事や、私の最近の出来事。 楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。 「もうこんな時間だ。そろそろ帰るね。」 時計を見ると、11時をまわっていた。 優人さんを玄関まで送る。 そういえば、まだ連絡先を聞いていない。 聞きたかった。 でもこの時『教えて』の一言が、どうしても言えなかった。 「長居しちゃってごめんね。今日は楽しかったよ。」 「いいえ、私も楽しかったですし。」 「あ、そうだ。昴ちゃん、手出して。」 右手を出すと、何かを手のひらに乗せ、握らせた。 「それじゃ、おやすみ。」 「おやすみなさい。」
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