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「なるほど…」
「身の上は簡単です。―――私は“導倖師”よ。私の家系では108代目のね」
「由緒が正しいな…。そういえば、そなた名はなんという?」
あっ…
まだ言ってなかったっけ…。
「私の名は“胡蝶”。いちお偽名だから」
「真名はなんと」
「捨てたわ…………。昔、母が死んだときに」
「何故?」
胡蝶は遠くを見た。
美しい胡蝶蘭が、風に揺れている。
「導倖師を継いだときに、真名は捨てなければいけなかった。真名を知られると、相手に自分の命を握られるようなことだもの。…………だから、知っているのは今のところ私、独りよ」
そう。
誰にも知られていない秘密の名前。過去に結んだ母との約束の切れ端が脳裏によぎる。
バレてはいけない、秘密の名前。
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