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あっ…。
見知らぬ男と目があった。
見られたらだめ…
その言葉が頭をよぎり、母の顔が思い出された。
『いい?**…。導倖師は決して素顔と真名を知られてはいけない。知られては、素性を調べ上げられて執拗に追ってくるかもしれないからね…。自分一人の幸せのために、監禁された導倖師だっている。一番最悪なのは――天子(天皇のこと)に見つかり妾にされることだ。いいかい**、導倖師の力を悪用されては、この世は滅茶苦茶になってしまう。それを未然に防ぐため、偽名を用い顔を隠して仕事に出るんだ。もし、見つかったら…』
勿忘草の花言葉を用いて相手の記憶を忘れさせる。
母様は昔、そう仰られておられたけど、都合よく花なんかあるわけない…。
どうやって切り抜けようか…。煙幕はあるけど、足が動かなきゃ意味ないし…。
頭の中で必死に考えていた胡蝶(偽名)は、壁に手を当て寄りかかりながらもその場に立つと、袂に入れていた煙幕を、男に投げつけた。
黙々と白い煙が立ち上ぼり辺りが見えなくなった頃、落ちた家とは逆の家に飛び上がった。
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